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役に立つものが嫌い?【森博嗣】連載「道草の道標」第14回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第14回

 

【エネルギィは役にしか立たない】

 

 ここで話が戻って、火力とか原子力とか、あるいは電力とかは、役に立つから利用されている。役に立たなかったら、自然から学んでも、人間が自分たちのために使うことはなかったはずだ。もともとは、神秘的で畏怖の念を抱く対象だった。また、火も雷も、恐ろしいとはいえ、どこか美しさを持っていて、神の存在に近い存在でもあっただろう。

 しかし、今はそうではない。誰も崇めてはいない。単に役に立つというだけのものでしかない。太陽光や風力で発電すれば、なんとなくクリーンで優しくて、ありがたいものだとイメージする人もいるかもしれないけれど、何で発電しようが、生まれるのは単なる電気でしかない。つまり「普通」である。好きとか嫌いで評価する対象ではない。

 エネルギィは機能すれば消滅する。存在するだけでは価値がなく、消滅することで役に立つ。消滅するときに価値に変換されるだけだ。高いところにあるものが持つポテンシャルエネルギィも同じである。

 僕が今回いいたかったのは、機能するから価値があるものは普通で、存在するだけで価値があるものが僕は好きだ、ということ。なにかしてくれるから好きなのではなく、いてくれるだけで嬉しくなる、それが愛というものではないだろうか。

 もっと端的にいうなら、役に立たないものが好きだ。役に立たないけれど愛らしいものを好きになる。いわば無駄なものに美を見出す感覚こそが、人間の感性というものであり、これこそが定量的に、あるいは機械的に測定できない価値といえる。美だけではない。面白い、不思議だ、寂しい、憎らしい、微笑ましい、といった価値も、同様である。

 クリスマスも終わり、外はますます寒くなった。暖かい地下室に線路を敷く作業を進めている。また、溶接をしたり、プラズマカッタで火花を散らしたり、と暗躍する毎日である。溶接のときの閃光は危険なので、遮光メガネやヘルメットで防御する。プラズマカッタの火花も危険なので、水を入れたトレイを下に置く。閃光も火花も役に立たない副産物、作業には無駄なものである。でも、とても綺麗だし、楽しい。これらがもしなかったら、少し味気ない作業になるだろう。

 

クリスマスケーキとツリーを前に、コスプレをさせられている犬たち。大きい方が僕が担当の子で、嬉しくないから嬉しい顔ができない、という素直さを持っている。このあとご褒美に焼きたての犬用スポンジケーキをもらえる。小さい方の老犬は、それを経験上知っているので笑顔である。

 

文:森博嗣

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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